CRT5 日本語版
脳振盪認識ツール5
国際的な専門家のグループによる「第5回国際スポーツ脳振盪会議」は、2016年10月にベルリンで開かれ、日本からも日本脳神経外傷学会の中のスポーツ頭部外傷検討委員会(スポーツ脳神経外傷検討委員会に2017年から名称変更)から代表を派遣し、声明に調印しています。
これまでも「スポーツによる脳振盪評価」はSCAT(スキャット)と呼称され、2012年11月に開かれた第4回の内容は、13歳以上用のSCAT3,5~12歳用のChildSCAT3としてありましたが、これらは専門家向けでした。
一般の人達が「脳振盪と気付くためのツール」として、『ポケット脳振盪認識ツール』(PCRT)も同時に発表されていました。これらを私どもは、スポーツを楽しむ人達を守るために実際に使われ、脳振盪やさらに重い頭部外傷を起こさないようにしたいと願い、脳神経外科医と整形外科医で2015年に飜訳し、HPに載せていました。
2017年春に、「スポーツにおける脳振盪に関する共同声明」は文章化され、SCAT5, ChildSCAT5, CRT5が公開されました。SCAT3やChildSCAT3やPCRTに馴染んだばかりの身には、突然のバージョン5に驚きますが、今回から会議開催回数と合致させただけでした。救急を意識して、頸椎損傷を早い段階で除外するような実際的な順番の入れ替え、いつ患者を動かすかのタイミング指導などが含まれています。今回のCRT5は「Concussion Recognition Tool 5」であり、脳振盪認識ツール5と呼称します。
ツールの内容には大きな変化はないまま、より詳細になっています。「脳振盪をめぐるエビデンスが日々発見されているので、このツールが絶対的なものではなく、一般的に作られたガイドとして、その他のものも参考にしながら使ってほしい」という謙虚な専門家の思いが込められています。
脳振盪は、軽度外傷性脳症(mTBI)のスペクトラムの一部ですが、症状は時間で変化し、診断は非常に複雑で難しく、完璧な診断の指標となるテストやマーカーはないので、「即座に脳振盪を除外することは不可能」なので、「疑わしい競技者は即座にプレーを中止させるべきである」と考える立場をとっています。
なお、脳振盪を受傷した一日目の症状が深刻であればあるほど、回復に長い時間がかかり、若い人ほど長引きやすい傾向はあります。ただ、受傷後24〜48時間の休息は必要ですが、それ以上の休息が回復に有益かどうかについてエビデンスはないので、現在は症状が悪化しない限り、“ほどほどに”取り組むことも推奨されつつあります。やみくもに休ませるのではなく、症状に導かれた活動の重要性が、競技への復帰のステップ1に記されました。
今回の声明では、脳振盪後症候群については、成人は10~14日以内、小児では4週間以内に回復しない人を指すようです。その際の精神心理的なアプローチも有効のようです。
今回のツールの飜訳ですが、日本のスポーツ界への浸透について、より専門家向けにはスポーツ庁や各種スポーツ団体および日本脳神経外傷学会が主導すべきと考えます。
一般人用の 脳振盪認識ツール5(Concussion Recognition Tool 5, CRT5) のみ、邦訳し掲載します。尚、出典は以下です。
2017年8月
小児脳神経外科医 藤原 一枝
整形外科医 塚原 純